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天才ぴかりん・作

どうでもいい話


この世の桃は、たくさんある。
その中のあるひとつの桃が考え事をしていた。
自分の使命や育った果樹園のこと、これから行く先々で出会う人々のことや、いつも果樹園にきてくれていたお姉さんの髪の色のこと。
兄弟たちと浴びた酸性雨のことも思い出していた。
そうだ。思いかえせばいろんなことがあった。
故郷が水没して、この川に流れついて…。
ざばっ。
「…!? 誰だ、僕を持ち上げるのは」
桃の知らないおばあさんだった。桃は家に持ち帰られた。
桃は困惑していた。初めて入る家だった。
しばらくして、知らないおじいさんが包丁を持ってやってきた。
おばあさんが「丁度いい」とか何とか言って、桃を指さす。
桃は、一瞬にしてこれから起こることを察し、考えた。
どうせ命が絶たれるなら、せめて最後になにか、自分の存在を後世に残せるような凄いことをしたい。
おじいさんが包丁を振り下ろした。甘い香りが部屋にひろがる。

桃のしたことはのちに、人々に語り継がれるものとなり、今もおとぎ話として人々に親しまれている。





静電気がおきました。
トレーナーとカーディガンの間に現れたのです。
「君たち、なぜ別れる必要があるんだね」
静電気が言いました。
「私たちは、ずっと一緒にいるわけにはいかないのです」
「そうです。洗濯するのも別々だし、それに」
トレーナーがこほん、と咳払いをして、続けました。
「たまにはセーターも着てあげないと!」
「そ、そうだったんですか」
納得したのか、静電気がすっと消えかけました。
「ちょっと待ってよ!ふたまたかけてたの、あんた!」
「ふ、ふたまた!? 僕はただいろんな服と着重ねをしたいだけで」
「それがふたまたっていうのが、わからないの!?」
言いたいことを言い、ぎゅうとトレーナーをしめつけたカーディガンは、怒りをあらわにしたままタンスに戻りました。
静電気は、やれやれ、とため息をつきました。





私は家に帰るために、電車に乗りました。
電車はやけに空いていて、私の乗った車両なんて、私を含めて3人しか乗っていませんでした。
車内はしーんと静まりかえり、電車の揺れる音だけが、がたんごとんと心地好く響いていました。
私はしばらくうとうとしながら足元の自分の傘を見ていました。
はっと気がつくと、車掌さんが知らない駅名を知らせていました。
乗り過ごしたか、と思って窓の外を見ると、あたり一面が木におおわれていました。
いつの間にか、森の中でした。
私は知らない駅で降車しました。
駅は、森の中にしては立派なつくりでした。
ホームは木が幾重にも重なりあってしっかりした面を作っていましたし、線路もちゃんとありました。
改札はなかったので、勝手に森の地面に降り立たせてもらいました。
そこには、おいしい空気が満ちていました。





にょんにょん劇場。パート1。
あるところに、にょんにょんという静物がいました。
そいつはいつでも誰にでもモチーフにされ、描かれていました。
しかしあるとき、ふと思いたったのです。
いつも描かれるだけなんて、もう嫌だ。
僕も誰かを描いてみせる、描いてやる!
そんな野望を胸にいだき、即行動に移しました。
早速キャンバスと絵の具と筆を用意し、写生に出かる準備をしました。
さあ、後は扉を開けて部屋を飛び出し、自由な世界へまっしぐら。
そう思っているのに、にょんにょんは動くことをしませんでした。
いいえ、動けなかったのです。
悲しいことに、にょんにょんは静物なので自ら動くことができなかったのです。
沈んでいく夕陽を窓から眺め、にょんにょんは静かに部屋にたたずんでいました。





伊達眼鏡くんは、伊達が苗字で眼鏡が名前なのではない。
伊達眼鏡の四文字全部あわせて名前である。
苗字の詳細は誰も知らない。
ある日、どうしても伊達眼鏡くんの苗字を知りたくなったトワイライトくんは、友達たちに聞いてまわった。
すると友達たちは口をそろえて、それなら本人にきけという。
最後に、伊達眼鏡くんにそのことを尋ねても大丈夫だろうかとシメサバさんに相談したところ、彼女は不可解なことをつぶやいた。
「たぶん、聞いてもわからないだろうけどね」
しかしひとりで悩んでいても仕方がないので、勇気を出して本人に直接きいてみることにした。
「あのさ、伊達眼鏡くんの苗字って、なんていうの?」
伊達眼鏡くんは、意味深にくちびるの端をつりあげると、少しの沈黙の後、ゆっくりと話し出した。
「そうだねえ、それはいうなればヒマラヤ山脈よりも高く、利根川より長く、魔の海峡より危険な香りのするジャンボジェットに乗っている人のようなものだよ」
しばらくの沈黙。
そして、それ以来トワイライトくんは伊達眼鏡くんの苗字のことには触れなくなった。
夕陽のさす放課後の校舎を見上げ、シメサバさんはふう、とため息をついた。



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