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天才ぴかりん・作

− おいでませバナナフラッペ村 −

    

プルプルプルプル・・・
がちゃ。
「はい、もしもし。」
数日後、ももさんに電話がかかってきました。
「ももちゃん?私、パイよ。」
「パイ先生?どうしたんですか、突然。」
「ええ。今日、保育園の学芸会なんだけど見にこない?」
パイ先生のお誘いに、ももさんは二つ返事でOKしました。
「そう?それじゃあ11時に開演だから、間に合うように来てね。」
「はい。それじゃ。」
ももさんは電話を切ると、また受話器を取りカナトリーアさんにかけました。
今の話をして誘うと、カナトリーアさんもすぐに行くと言いました。
時間になると二人は待ち合わせの場所へ向かいました。
適当に挨拶をかわし、適当に喋りながら歩いていくと、保育園の門が見えてきました。
門をくぐってホールに行くと、パイ先生が舞台に幕をたらしているところでした。
「こんにちは、パイ先生。」
ももさんが言うと、パイ先生は幕の間から顔を出してにっこり笑いました。
「いらっしゃい。あと10分くらいで始まるから、その辺の席に座って待ってて。」
パイ先生はホールに並んでいるたくさんの椅子を指差しました。
ちらほらと父母さん達の姿もありました。
時間がたつにつれ、父母さん達の数は増え、開演直前になるとほぼ満席の状態でした。
舞台のすぐ近くにはマットが敷かれていて、そこには園児が座ります。
11時になり園児達がわいわい入ってくると、照明が暗くなり、放送が流れ出しました。
「レディーッスえーんどジェントルマン!!」
突然の大音量に、ホールはしぃん静まりました。
「本日はようこそおこし頂きありがとうございますーっ。」
「ち、ちょっとこれ、音量高すぎるんじゃ・・・。」
「パイ先生、気づいてないみたい。言ってくる。」
パイ先生・・・美人さんにょ。ももさんはホールを抜けて放送室へ急ぎました。
中ではパイ先生がひとり、原稿を読み上げていました。
とびらをばばんと叩くと、パイ先生が放送を中断して中へ入れてくれました。
「どうしたの。」
「先生、音が大きすぎます。」
「えっ。あらあら、ごめんなさいね。ありがとう。」
ももさんの指摘を受けて、パイ先生はさっと音量を下げました。
ももさんは、心の中では「テンション高すぎます。」とも思っていました。
ホールに戻りました。
最初の劇が始まる準備をしているところでした。
この保育園の学芸会は11時〜12時半まで各組の劇、1時半までご飯で、それからまた劇を見ます。
お昼の後の劇というのは、近所の学校の演劇部に毎年やってもらっているものです。
これは保母さん達の楽しみでもあり、園児達の楽しみでもあります。
お昼になりました。
園児達は親と一緒にご飯を食べます。
ももさん達はパイ先生と職員室で食べるようです。
「さっきの最年長の組の『ハイステップコーナーの女』って、すごかったと思います。」
「泣けるけど、ギャグだったよね。」
そんなことを話しながら、パイ先生に渡されたお弁当を食べました。
食べ終わった頃、保育園の前に荷物が到着しました。
「あ、来た来た。」
パイ先生が荷物を職員室まで運んできました。
それとほぼ同時くらいに、電話が鳴りました。
「はい、ホルマリン保育園・・・・え、そうなんですか。・・・ええ、はい・・・わかりました。」
チンと電話を切ると、パイ先生は困った顔でため息をつきました。
「どうしたんですの?」
カナトリーアさんが聞くと、パイ先生は困った顔のまま言いました。
「演劇部の生徒さん達、部活でおまんじゅう食べたらお腹壊してしまって、今日は来れそうにないんですって。食中毒かなにからしいんだけど。・・・午後の劇は中止するしかないわね。」
パイ先生はまたため息をつきました。
「無事な部員はいないんですか?」
「みんな食べてしまったらしいのよ。」
「そうなんですか。」
もはやこれまでか!?と思ったその時でした。
「諦めるのは、まだ早くてよ!」
ガララララッと大げさに、職員室のドアが開きました。
「おーほほほ!ももさん!あなたともあろう者がこんなことで諦めるんですの?」
「ペ、ペペロニアーナ・・・。」
叫んでいたのは、ペペロニアーナでした。
「どうして貴方がいらっしゃるの。」
カナトリーアさんが聞きました。
「ここは私の住んでいる町ですもの。私がいたって何の不自然もありませんわ。それより・・・。」
ペペロニアーナはみんなの顔を見渡すと言いました。
「劇くらい、私たちでやりますわよ!」
「・・・え。」
「誰がやるって?」
「私たちですわ。」
何秒間か、部屋に沈黙が滞在していたようでした。
「ぼーっとしてる時間は無いわよ、さっさと台本覚えないといけないんだから。」
そう言うとペペロニアーナは荷物を開けて台本を取り、ももさん達に手渡しました。
あまりの手際の良さに、ももさんはびっくりです。
「劇は小さい子たちにもわかりやすく、かつ面白く『シンデレラ・改善版』!配役は・・・。」
「ちょっと、まだやるなんて・・・。」
言ってない、と言おうとしたカナトリーアさんをももさんが止めました。
「私たちがやれば、パイ先生は困らないんだもの。せっかくだからやりましょう。」
ももさんは笑いました。
「私は継母を、ペペロニアーナは姉を、パイ先生は魔法使いをやってください。」
「わ、私が姉の役ですの?!」
「シンデレラをカナトリーアが。えっと、王子様は・・・。」
「おれがやるーっ!」
妙に元気な声が、部屋にこだましました。
声の主はペパロニでした。
「あっ、この間の!」
ペペロニアーナはペパロニを睨みました。
「あ、こないだのうるさい人。つべこべ言ってないでさぁ、練習しようぜ〜。」
ペパロニは軽く睨み返すと、台本を持って言いました。
「しょうがないなぁ。でもペパロニ、修行はいいの?」
ももさんが衣装を出しながら聞きました。
「うん。今日は午前中だけだもん。」
ペパロニはそう答えると、衣装をかぶりました。
どいつもこいつも、どっからわいて出たのでしょう。
よくあることですけど。
ももさん達も衣装を着て、練習を始めました。
35分ほどたちました。
またホールに集まり、パイ先生が喋り出しました。
あっ!あぶな〜い・・・。 「これより、劇『シンデレラ』を始めたいと思います。」
「出演は私、ペペロニアーナ ・・・。」
ごぃんっ。
いきなり自己紹介をし始めたペペロニアーナを、ペパロニがフライパンで叩きました。
笑い声が聞こえました。
ずるずる引きずって舞台裏まで行くと、ペパロニは言いました。
「なんで挨拶してんの、こいつ。」
「自己主張が強いだけよ。」
幕が開くと、カナトリーアが舞台に出ました。
「はぁ。今日も掃除に洗濯、草むしり、大変だわ。」
するとそこへ、継母(ももさん)と姉(ペペロニアーナ)がやってきます。
「シンデレラぁ、私プリンを食べたいわ。」
姉が言いました。
「卵と牛乳がありません。食べたいなら買ってきて下さい。」
シンデレラ(カナトリーアさん)も鋭い切り返しです。
「シンデレラ。ここはほこりがたまっているわよ、早く掃除なさい。」
「今やってます。」
ピンポーン。
突然呼び鈴が鳴ります。
継母が出ると、武闘会への招待状でした。
「あら、何着て行こうかしら。」
「今日の夜ですって。」
「シンデレラは、そのボロ服しかないから行けないわねーっ。」
おーほほほ、と姉は笑いました。
ペペロニアーナは地で意地悪な姉をやってのけていました。
ある意味、感動的です。似合いすぎです。
第2幕です。
「私、どーしても武闘会に行きたいんです。」
「よし、そのための武闘着ね。ちちんぶひぶひ。」
魔法使い(パイ先生)が魔法をかけると、シンデレラは強そうな武闘着に変身しました。
「12時までに王子様を倒さなければ、魔法が解けてしまいますからね。」
そしてシンデレラは武闘会に行きました。
お城は戦場となろうとしています。
「僕が王子様!僕に勝った者をお嫁さんにする!」
王子様(ペパロニ)が現れて言いました。
ドカアアァァァンッ!!
さあ、今から!という時に突然、ホールの壁が吹き飛びました。
「な、何!?」
もくもくと漂う煙の向こうに見えたのは、なんとモクタンカニでした。
しかし、普通のモクタンカニとは違いました。
「で、でか・・・っ。」
モクタンカニは3mくらいの高さがありました。
「あー・・・。やっぱ、こいつを倒したやつが花嫁だ。」
ペパロニの適当なアドリブにより、強制的に劇は続行になりました。
「じゃあ、私が!」
ペペロニアーナが前へ出ようとしました。
が、ももさんががしっと肩を掴んで止めました。
「まだ劇の最中なんだから、カナトリーアに倒させるのよ。」
ももさんは小声で言うと、今度は演技用ボイスで続けました。
「まあ、強そうな魔物!私たちには倒せないわ!」
そしてさりげなくペペロニアーナを後ろに押しやりました。
するとカナトリーアさんがモクタンカニにむかって、壮大に蹴りをぶちあてました。
カナトリーアさんの蹴りは強力で、モクタンカニは後ろに10mほど吹っ飛びました。
「おぉ、なんと美しい!貴方をお嫁さんにしよう!」
ペパロニが言うと、ジャジャジャーンと「結婚行進曲」が流れました。
「では結婚式にしましょう。」
カナトリーアさんはカニが起きたら危ないかもしれないと思い、後の部分をはしょりました。
それから軽く結婚式をすませると「シンデレラは王子様と幸せに暮らしました。」と、劇を半ば強引にはっぴぃエンドで終らせました。
でかすぎる・・・! 劇が終るとももさん達は、モクタンカニの様子を見に行きました。
モクタンカニは仰向けでもぞもぞ動いていました。
一人で起き上がれないのです。
「大丈夫?さっきはごめんなさいね。」
カナトリーアさんが起こしてあげながら言いました。
モクタンカニはぐおぐお唸っていました。
「なんて言ってるのかわかんねーな。」
ペパロニが首を傾げると、ペペロニアーナが言いました。
「ありがとうですって。」
みんなが一斉に振り返りました。
「ペペロニアーナ、わかるの?」
ももさんが言いました。
「まぁ。カニ語の勉強もしましたから。」
おーほほほ、とペペロニアーナは笑いました。
う、うわ、なんか凄そうだけど大して凄くねぇ!とみんなは思いました。
「モクタンカニが巨大化するのは、機嫌が良くなかったりストレスがたまったりしたときだったはずよ。・・・どうしたの?」
ももさんはモクタンカニに尋ねました。
モクタンカニがぐおんぐおんと言うのを聞いて、ペペロニアーナは通訳しました。
「まったく信じられん。そこの小僧がわしを踏んだのじゃ。気持ち良く昼寝しとったのに。」
今度はみんな、ペパロニに注目しました。
小僧なんてペパロニ以外考えられません。
「ペパロニ、ちゃんと謝りなさいね。」
「え、あ、ごめんなさい。」
ももさんに言われ、ペパロニは割と素直に謝りました。
モクタンカニはそれを聞くと「まぁいいわい」と言って、丘へ帰って行きました。
「ペパロニ、いつ踏んだのよ。」
「えっと・・・いつだろう。」
ペパロニは考えこんでいましたが、結局思い出せませんでした。
踏んだのに・・・。ピクニックの時に。
ももさん達はパイ先生に壁を壊した事を謝り挨拶をすると、それぞれ家路につきました。
ちなみに、ももさん達の劇は大盛況でした。

へつづく・・・

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